富士登山競走「裸足サブ4」完走記 その1スタート〜馬返し

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3年前、5合目コースを裸足で完走して得た山頂コース挑戦権。

しかしその後の試走で裸足では5合目以降の山岳コースの悪路でレースペースをキープすることはおろか、

足裏が山頂までもたないことが判明。

2年前、完走のため仕方なしに手作りサンダルを履き山頂コースを完走した。

しかし裸足でなかったことによるあまりの不全感から再度裸足での挑戦を決意。

昨年、裸足で山頂コースを初挑戦したが荒天のため5合目打ち切りレースとなり、先送りとなった。

そして迎えた今年。
事前レースである彩の国100マイルを途中でドロップDNFしたという嫌な感覚が残っていた。

その空気感を払拭するためにこれまで以上の早さ頻度で試走、準備を重ねた。

しかし、試走の結果は完走ギリギリ、下手をすれば8合目関門ギリギリという見込みが出ていた。

それでもレースを控え、覚悟は決まっていた。

 

 

裸足で富士登山競走を時間内完走するなんて不可能だ。ありえない。

裸足ランナーである自分ですら時折アタマをかすめるこの「不可能」の文字。

モハメッド・アリのこのことばが見事に自分の弱気をひっくり返してくれた。




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レース前日は夜勤明け。大した仮眠もできず家庭内ミッションをこなす。

これまで過去3回はクルマで未明発早朝着の弾丸日程だった。

今回はコペルニクス的ライフハッックを考案、実践のため車中泊を決め込む。

 

 

しかし家庭内ミッションが立て込みバタバタ。到着は日付が変わってからだった。
仮眠時間は4時間弱だったが、熟睡感はあった。

レース当日は4:30起き。
狭い軽自動車の車中で裸足仲間からの贈り物の北口本宮富士浅間神社近くの馬肉で有名な伊藤精肉店謹製の「馬油」を全身に塗り込む。ほのかに漂う獣臭が自分もまだ知らない奥底に眠る野生に火がついた。
この「馬油」は肌によく馴染み、汗をかいても落ちることなくしっとりとしている。
擦れやすい部分はは特に入念に刷り込む。
そして今日おろしたての白の晒し全幅六尺褌を締め込む。
立位の取れない車内で締め込むのは少し難易度が高い。

 

頭は褌と同素材の晒しを2枚重ねで被り縛る。
しまむら謹製の白のチープノースリーブシャツを上に着る。
そして今年もTNFのエンデュランスベルト。
その中に現金2000円とマグオン3つとiPhoneとウィンドシェルと下山用の地下足袋を入れる。
他には何も持たない、身につけない。
腕時計はもたない。水分も持たない。ランパンは履かない。ランシューも履かない。
 

 

朝食はお稲荷さんと助六寿司と唐揚げ。
前日の昼に排便あったためか、結局当日朝は排便みられず。この不規則不安定さは交代勤務の性、仕方なし。


6:15頃に鐘山グランド駐車場から送迎バスに乗り込む。
6:30 頃、富士吉田市役所に到着。

ほとんどのランナーは少しでも前のスタート位置を
確保するために早めに来て待ち構えている。

しかし裸足、褌一丁で早めに並び好奇の視線を浴びることで、
スタート前にいたずらに消耗しないために荷物預けをギリギリの6:45に済ませ、
その流れでBブロック最後尾に並んだ。

 5合目コースに出場の裸足仲間の応援エールを受け気合が入る。
周囲のランナーから次々と声をかけられる。
「去年も会いました!」「いつも裸足なんですか?!」「握手してください。そのパワーにあやかりたい!」「一緒に写真を撮ってもいいですか!」などなど。
高揚しつつも静かな気持ちでスタートを待つ。
褌一丁での「エイエイオー!」は不思議と例年になく気合が入った。
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カラダの奥底の何かのスイッチがカチリと音を立てたのを感じた。

そして、スタートの号砲を聞く。
今年で70回を迎える富士登山競走の歴史で裸足で完走したという記録は残っていない。
前人未踏の挑戦がはじまった。
スタートしてからも「manさんですよね。Twitterみてます。がんばってください!」などなどたくさんランナーから声がかかる。
沿道からは「ふんどし! ?!?はだし!」という驚嘆の声がたくさんかかった。
最初はゆったりしたペースで入ったが、裸足の場合、走れる前半の舗装路で十分な貯金を作らないと、
山岳セクションでの失速を相殺できない。
すぐにギアを切り替えスピードをぐんぐんあげて前のランナー次々とパスしていった。
この序盤のアスファルトのガレすら3年前はナーバスになっていたが、いまでは全く気にせずはしっている自分を不思議な気持ちで眺めていた。
​富士浅間神社の手前を右折して森の中へ。

すぐ浅間神社の給水所に到着。
しっかり水を1杯飲み軽くかぶり水。
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給水所を出ると、単調な長い上りが始まる。
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調子は可もなく不可もなし。
淡々と中の茶屋まで刻んでゆく。

時計は持っていなくても周囲のランナーのゼッケンを見ればだいたい自分が全体のどの位置を走っているかがわかるのがこのレースの面白いところ。
このあたりでは自分のゼッケンと同じ1000番前後が多く、分相応なペースで経過していることを知る。

中の茶屋でも知り合いから声援を受けさらに気合が入る。
給水をしっかり取り、かぶり水。
曇天、気温低めでもすでに結構な発汗だ。
ここからアスファルトはガタガタにガレてきて、足裏の刺激が増してくるセクションに突入する。


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中ノ茶屋を過ぎると、足裏事情的に失速し周囲のランナーに抜かれるモードになるのが例年の典型的な展開だ。
しかし今年は、どういうわけか周囲のランナーに抜かれることがない。
失速感はあるが、斜度分の失速であって、周囲のシューズランナーも同様の程度。
いつも失望する区間で前向きに淡々とレースできている自分に不思議な気持ちになる。
大石茶屋を越えたあたりから斜度が増す中、ここにきて周囲のランナーを追い抜くことも増えてきた。
特別ゼッケンの女性選手もちらほら周囲に見えるようになる。
心肺的にも足裏事情的にもなんら無理はしていない状況にもかかわらずにだ。
毎年この区間は足を攣る区間でもあるが、今年は全くその兆候がない。
今日の自分はなんだかいつもと違っている。
そう感じはじめた。
給水所前の激坂を小走りにマグオン摂取。そして給水とかぶり水。
そしてあっけないほど簡単に馬返しの計測マットを通過。
時計のない自分はそこで初めてタイムを知ることになる。
1時間2分。
悪くない。上出来だ。
余裕もかなり残っている。
さあ、ここからが勝負だ。