W-MAN SANDALS(トレイル用マンサンダル)その1
man3DALsを産みだした事で普段、裸足でやっていることを微塵の違和感なく履物(マンサンダル)を履いても、拡張現実的に引き伸ばしシームレスに可能とすることに成功した。
— man (@man10000) October 1, 2018
しかし、トレイルではいつも困難を余儀なくされていた。そんな苦難の日々に今、終止符が打たれようとしている。#Trailman3DALs
トレイルワラーチ。
なんて甘美で儚い響きなのだろうか…
バベルの塔の様な、人間の傲慢と山という神への冒涜…
4年前、ワラーチで走りはじめてから長らくの懸案であったトレイル用のワラーチは試行錯誤の末、ここにあるような形で一応の完成は見ていた。
その試行錯誤の一端はツイログ検索「トレイル ワラーチ」で検索し遡ることでうかがい知ることができる。
しかしその後、レース中の雨天、泥濘、ガレなど過酷な状況下では脆弱で完全でないことが露呈した。ワラーチの作り手として多くの方から「トレイル用のワラーチ」の完成形を求められた。
ゴム紐ワラーチ(MAN SANDALSのプロトタイプ)というロードランニングにおいてのワラーチの一つの完成形が出来上がっていたことでなおこの要望は強まった。
しかしこの頃私は裸足ランニングスキルの習得に夢中で、裸足でトレイルを走ることが優先され、ワラーチを履いてトレイルを走ることは二の次としていた。そして長らくトレイル用開発の優先順位は低く棚上げされたままであった。
それはゴム紐ワラーチがパラコードのMAN SANDALSに生まれ変わってもしばらく続いた。
マンサンダルになって確立されるところとなった「ゆるふわりん」のコンセプトが逆に縛りとなり選択肢を狭め、開発を困難なものとさせたからだ。
だいたいロードならともかく「ゆるふわりん」で激坂、ガレ道トレイルを
走れるはずないじゃないか。
紐でしっかりサンダルと足を固定して縛りあげないと。
誰もがそう思った。
しかし一度でもオールモストベアフットな思わず笑みのこぼれるあの「マンサンダルネス」を味わい尽くしてしまった足裏は、もう2度とソール上、磔(はりつけ)の刑にある屋根のないシューズのような重苦しいワラーチには戻れず、ごまかしが効かなくなってしまっていたのだ。
そのためコンセプト「ゆるふわりん」はたとえトレイル用途であったとしても不可避であった。それは私だけでなく、すべてのマンサンダリスト共通の願いでもあったのだ。
ハセツネ、富士登山競走を裸足で完走し、やりたかったことは成し遂げられたが、その後、一部の大会が次々と裸足で走ることを禁止しはじめ、トレイルでレースをするためには何かしらの履物を必要とする状況が増えてきた。
そのことでトレイル用マンサンダルを作成するモチベーションが高まってきたのだ。
また100マイルのトレイルレースを裸足で完走することの困難さがロード100kmやハセツネを裸足で走る中で現実のものとして受け止められるようになり、100マイルを完走するためにはどうしてもトレイルマンサンダルの開発を避けては通れなくなっていた。
あとトレイル仕様のman3DALsも、なんとか完成させたい。本家ララムリの元祖ワラーチを越える「チカラ」を持った、スペシャルなサンダルを。アイディアはある。新しい紐づかいも!
— man (@man10000) April 4, 2018
まずはマンサンダルをベースに考え始めた。
「引き算」の塊 #man3DALs。しかしトレイルエディション開発にあたってはどうしたって「足し算」をしなければならず、論理的矛盾、自家撞着をどう折り合いをつけるのか。それが長年の懸案であり、発表が遅れている原因でもあった。これまでのプロトタイプではずっと妥協している部分があった。
— man (@man10000) March 29, 2019
4mmのパラコードで吊り上げることのできる重さは60g未満(50g以内がベスト)と決まっており、それ以上になると重さが慣性の法則、振り子現象を生み「ゆるふわりん」のコンセプトが不能となる。
これはマンサンダルに「足し算」ができないことの所以でもある。
そもそもが裸足から最低限何を足したら裸足の動きを邪魔しないミニマルな履物が成立するかというところから出発したマンサンダルという履物。
ベストバランスが決まっているだけにマンサンダルから足すことはもちろんのこと「引くこと」すら難しい、不可能なのである。
トレイル用のサンダルに求められるポイントは2つ
・ガレ耐性(ガレ場で足裏の刺激を緩和しつつも安全を保つための最低限の路面情報フィードバックを得られることができることを高度にバランスしたソール)
・泥濘耐性(水、泥土が足裏とソールの間に入ってきても滑らないフットベッド)
これらに合わせてマンサンダルが持つ裸足の感覚「ゆるふわりん」が高度にバランスすること。
以上が絶対条件だった。
ソールは足し算をする他ない。
コードもそれに合わせて足し算してバランスをとる。
そういう方針で開発を進めた。
まずソール選定を急いだ。
10mmのビブラムの各種ソール(チェリー、タンク、ウッドストック)を取り寄せて試した。
しかしどれもガレに対する突き上げが強く不採用となった。
ノンスリップシートや半張りシートを重ねることでカバーしてみたが、今度は重さが過剰となりマンサンダルネスを著しく阻害したので不採用とした。
(*何かを「履く」というマインドセット、期待値にそぐわない足裏刺激は履き甲斐を失わせ「裸足の方が良い」という本末転倒な気分を誘発させる)
防音壁の特性と同じで、異素材のソールを重ねることで同じ厚みでもガレ耐性を生み出しやすいことは以前のトレイルワラーチ開発中の実験結果からわかっていた。
そこで6mm前後のソールを各種重ねることにした。
足裏に接するフットベッド部分で一番適していたのはやはり8338であった。
しかし泥濘耐性がなく何らかの滑り止め加工が必要だった。
底材としても各種試した。
8867タンクが有力と考えられたが、足裏にスパイク要素の突起物があるというだけで足裏はそれを敏感に察知し、裸足らしからぬ挙動(足裏のグリップをあてにして摩擦させる動き)をし始める弊害を感じたので不採用とした。
8867タンクはパターン的にもグリップを頼りにするマインドセットにどうしても陥りがち。スキーのように半分滑りながら半分止まれるぐらいの8338や8365チェリーがトレイルでは適しているように感じる。8338はパターンの関係上横方向のグリップが極端に少ないという癖がある。 https://t.co/DTSCTSnos8
— man (@man10000) May 6, 2019
チェリーがもっとも自然なグリップを示し程よく滑ったので採用とした。
この二枚重ねがその他何十種類の組み合わせパターンの中でもっとも秀逸だった。
足裏の泥濘対策、滑り止めに関して。
この二枚重ねに対してさらにノンスリップシートを貼り付けることは重量増と柔軟性の低下を招き不可能という結論になった。
この辺りから目標重量が決まってきていた。
27.5cm相当で片足100gだ。
これを上回ると足は重さを感じ始める。下回れば回るほど足が軽く回り始める。
フットベッドに足し算をせずに滑り止め加工をするためには直接ソールに溝を掘るほかない。レーザーカッターが最適でありそれをできる業者を探した。ウレタンソールを加工する際大量の煤と匂いが発生し機械と工房を汚染するため請け負う業者がなかなか見つからなかったが、幸運にもこの難しい注文を受けてくれる業者が見つかり受注、エンボス模様を刻んだ「レーザーエンボス8338」の試作品が出来上がった。
見事に泥濘で滑らず、水はけも良好で、トレイルで十分に機能することがわかった。
ソールは決まった。
しかしロープの選定が困難を極め完成が遅れる(その2に続く)。